顎不全症(TMD temporo mandibular disorder)について述べてみます。以前は顎関節症という名称で呼ばれていたし、そういう名称の方が解りやすい方もいらっしゃいますので同じ様なものと考えて結構です。普通の歯科医院に来院される方の中には、顎のまわりの筋肉の痛みを歯の痛みと勘違いしたりする方もいます。その様な方の場合
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1.耳の症状 難聴、耳鳴、めまい
2.咽頭、舌、鼻粘膜の疼痛(痛み)
3.頭痛、後頭部、頭頂部、耳後部の疼痛(痛み)
4.顎関節症状(ポキン,ポキンとかジャリジャリとか音がする)顎運動制限(口を開けにくい)
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等の多様な症状をする方がおられ、古くは顎関節症、現在は顎不全症(TMD)という言い方をします。大学及び研究機関レベルでのお話ですと、主にストレスや自律神経系の乱れによるものとかんがえられています。
当然歯の治療も心や体に激しいストレスを加えるものですから、これが引き金となって体全体に不調をきたす人もいる事が報告されています。このようなTMDとよばれる病気は、現代社会とは切ってもきれないストレス、自律神経の乱れという伏線がありますので、ちょっとした歯の治療や噛み合わせの異常で調子を悪くするようです。
歯医者さんの技量ミスを指摘する医療ジャーナリスト 油井香代子さんの「あなたの歯医者さんは大丈夫か 歯科医療ミスの恐るべき実態」 双葉社¥1500円では、これでもかというほど噛み合わせの不調から顎関節症になるような事例がありますが、私はあまり遭遇しません。しかし他の歯医者さんでとても噛み合わせが高いブリッジをいれたからでしょうが、入れてからひどい肩こりに見舞われた方がいました。
当然ブリッジははずれましたが、ミスがあるのは多いようです。それは数をこなさなくては、医業経営が難しいという事情があるようですがそれ以上に調整というのは、こだわると1ミクロン単位の調整となり時間がかかり大変なのです。
従って、あまり高さを狂わさない努力や、むやみに歯を削りつなげようとせず、本人が許してくださるなら入れ歯でも良いと思うのですが。私の場合事前に歯の状態を正確に記録しておき、噛み合わせの高さに狂いが無いように、歯型を取ることや上下の噛み方の記録に工夫を凝らし、調整量を少なくできるようにして患者一人に時間がかからないようにしています。
ストレス等で体や心が緊張状態にある人の場合、ブラキシズムとよばれる歯ぎしりや噛いしばりをする方が多く、歯の噛み合わせの部分に異常なこう耗(すり減り)がみられる場合事が多いのです。TMDの場合
- 歯に現れる症状
主にこう耗(歯がすり減り真っ平らになったり、虫歯でもないのに異常な穴が開いてしまう状態)、歯の破折、まれですが歯の歯髓炎(しみること)があります。
- 歯のまわりの組織に現れる症状
歯の周りの組織に現れる症状でレントゲン的異常が認められ、自覚症状としては歯の動揺という形が多いのです。
- 顎の関節や神経、筋肉に現れる症状
口が開けにくい、耳の前の顎関節の圧痛(指で押した時の痛み)と食事中の痛み、顎関節からの異常な音(ポキン、ポキンとかジャリジャリという音)、ロッキングといって口を開けている途中で下の顎が動かなくなる、口のまわりの筋(咀嚼筋)の圧痛、顔や頭の痛み
- 耳に現れる症状
耳痛、耳鳴り、難聴、耳の圧迫感ないしは閉塞感、めまい等があり殆ど全ての症例で一側のみの耳症状としてあらわれます。
- その他の症状
随伴症状、等があります。
治療法としては、
原因療法
- Occlusal splint 療法
マウスピースみたいなものをお口の中にいれて、上下の歯がぶつからないようにする方法です。現在はあまり使いません。但し、筋力アップや格闘技選手用にはよく作られています。
- 緊張緩和療法(ストレスを発散させる方法です)
自律訓練法⇒T.M.瞑想を推薦します。簡単なリラックス法です。わずか一日20分を2回ぐらいでよろしいのです。
- Massed practice therapy
対症療法
- 食事療法
顎不全症(T.M.D)はストレスや自律神経の緊張に伴う、咀嚼筋の痙攣が原因だと考えられておりますので、筋肉の栄養と筋肉に負担をかけない食事についての対策が必要です。
- どんな食べ物がよいか(硬さについて)
簡単にいえば、硬いものを避け、柔らかいものをゆっくり噛むというあたりまえの事をやるしかないのです。例えば肉類はそのままではなくひき肉にするとかイカやタコ、アワビなどの硬いものは避け、代わりに煮魚にするとかです。揚げ物は避けるほうがよろしいと思います。
- 栄養について
良くない物⇒砂糖、カフェインを含む飲み物(コーヒーなど)、米やうどん、パンなどの炭水化物の取りすぎ(頭を刺激する食品や酸性食品)、筋肉の痙攣を誘発するチョコレート、ハム、コーンビーフなどの亜硝酸塩を含むもの 良いもの⇒新鮮な野菜や果物、ビタミンやミネラルを多く含んだ食物
急性症状がある時は、カルシウムを多く含んだ牛乳やチーズやヨーグルトが良いですし、緑黄野菜、豆、カン詰めの鮭,はまぐり、カキ、豆腐がよいのです。これは筋肉の伸び縮みにはカルシウムが必要だからです。
総合的に考えると、少肉多菜、少糖多果、少食多噛の和食が一番のような気がします。
- 運動療法
顔や顎のまわりのどの筋肉が痙攣をおこしているかを詳細に調べ、それに対してストレッチを行う方法です。意外と効果があります。
それに先立ち、私は全般的な体のストレッチとして真向法(まっこうほう)を推薦しています。
- ハリ治療
ハリというのは、身体のツボといわれる部分に先端が丸く弾性が高いステンレスを刺し、それを上下に或いは捻りを加え刺激を与え、問題の部分や離れた部分の痛みや機能障害を改善する方法です。
実際私が臨床で使う場合は顔面、次に首、肩、後頭部、それから手、足のツボを使いどちらかとといえば圧痛がある部位を探しそこにハリを打つということにしています。ほぼツボと一致する事が多いようです。
- 井穴・刺絡(せいけつ しらく)療法
ハリ治療と概念的には良く似ているのですが、経絡は手の井穴(せいけつ)という所から足の井穴までのラインを言います。そして色々なツボを使い治療を行うのです。然し井穴・刺絡療法の場合、全てのツボの中で井穴が最も重要と考えておりここを注射針やメスで刺し出血させることにより、神経反射から自律神経を調節し痛みや病気を治す方法です。 極めて即効性がありますが、ハリと違い痛いのと出血させなければならないという欠点があります。この方法は古代中国の医学文献にあるのですが、これを現代に蘇らせ、系統的にまとめた方が横浜の開業医、浅見先生なのです。そしてこれを理論的に完成させたのが、新潟の福田先生と新潟大学免疫学教授 安保(あぼ)先生なのです。「医療が病をつくる 免疫からの警鐘 岩波書店¥1800円」 ツボに比べて数が少ないし、解かりやすい方法といえます。
- ホメオパシー
これはヨーロッパにおいて200年以上前にドイツ人医師、サミュエル、ハーネマンが確立した治療体系で、解り易くいいますとワクチンと似たような作用により、病気を治癒させる方法です。簡単で安く、副作用が少ないそして、急性でも慢性でも良く効きますが、慢性疾患の場合3年以上の勉強と経験が無ければなかなか難しいという事があり、普及しない理由の一つになっています。
天然の物を使いますが、既存のハーブ療法や、漢方と違い、際立っての違いはとても微量だという事と振とう撹拌により効果が強くなるというなかなか理解しがたい治療法です。理屈を考えると、混乱し話が先にすすみませんので、薬草の有効成分がある種の電磁気な形で受け継がれ効果が在ると考えるようにしていますが、本当の科学的な事は鍼灸や漢方と同じで良く解明されていません。しかし、何百年も受け継がれている治療法で人間にも動物にも効果があります。
現代医学風に申しますと、人の免疫、自然治癒力に刺激を与える事により病気を治癒させる方法です。
ですから、私は免疫療法の一つと解釈して知らない方に説明しております。日本ホメオパシー医学会
その2つの基本原理は、
1)Like cures like
似たものが似た症状を治癒するという意味です。
2)The Minimum Effective Dose
最小限度で効果的な投与を行う。
有毒な砒素や水銀もどんどん薄めていくと、副作用が少なくなり、反対に薬として使えるようになります。
■症例1.女性 年齢 30歳
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主訴は会社の近くの歯科医院で歯の治療するも半年経っても改善が見られない。右下第2大臼歯根管治療途中で来院。いわゆる神経を取った後の治療なのですが、なかなか痛みが止まらないという事で来院されました。 通常の治療を施して歯の打診痛(叩くと痛いかどうか)がなくなりましたので次のステップに進もうとしていたのですが、まだ痛みがあるというので精査しましたところ痛みのある所は歯ではなく、それにほぼ一致したところの咬筋、いわゆるエラの近くの筋肉が痛んでいる部分だったのです。その筋肉の痛みを歯の痛みと勘違いしていたようでした。 従いまして、虫歯でもない歯の神経を取ったりした可能性が大いにある状況でした。通常の歯の治療後、顎の筋肉のストレッチと柔軟体操を指示して実行してもらいましたところ、寝る前の柔軟体操だけで痛みは治まりました。お話を伺いますと、北海道から上京し通勤と仕事でストレスが溜まっていたそうです。
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■症例2.女性 年齢 38歳
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主訴は銀歯が取れたか歯がしみるかでしたが、開口障害(口が大きく開かない)で治療が思うようにできない状態でした。以前この事で近くの総合病院の歯科・口腔外科を受診しマウスピースを作成して装着しましたが、なかなか変化が無いという事と夜装着していると朝にははずれているということ、そして装着事態がストレスの原因になっているということでした。。 お話を伺いますと、御主人や娘さんの事で最近悩みがちであったということで、表情が全体的に暗く、うつ病的な感じを受けました。柔軟体操や顎の筋肉のストレッチを指示しましたが、なかなかできないので、刺絡療法と鍼灸を併用しましたところ開口障害はなくなりました。
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